第8章 秋の夕焼
「みんな、おかえり」
出陣から戻ると、主は必ず門の前で迎えてくれる。いや、出陣だけでなく遠征から戻っても必ず門の前で迎えてくれるのだ。そして皆の無事を確認すると、安堵したように笑って言う。おかえり、と。その優しく温かな声を聞くと、それだけで疲労も回復したような気にもなってしまう。そう思っているのは私だけではないようだ。
「主!お土産いっぱい持ってきたよ‼︎それにこれ‼︎早く顕現してあげて」
乱が興奮気味に太刀を差し出す。敵本陣を撃破した際に得た太刀にこの本丸には不在だった兄の気配を感じているのだろう。軽傷を負っているのにやけに饒舌だ。主は太刀を受け取りながら苦笑する。
「まずは乱の手入れが先よ。せっかくお迎えするのだから綺麗にしないとね」
これくらいなんでもないと言う乱の頭を撫でながら、皆を風呂へと向かわせる。顕現した時に傷を負った弟がいれば兄が悲しむと言い含め、主は乱を手入れ部屋へと向かわせた。
「鶯丸はケガしていないみたいね。やっぱりあなたは強いのね」
ふわり、と柔らかな微笑みを浮かべて私の方を向くと感心したように言葉を紡ぐ。ここしばらく第一部隊にいたこともあり、練度はかなり上がっていた。それでもまだ上には上がいるが。まっすぐに見つめ返すことが何故か憚られて目を逸らす。主は少し淋しげに微笑んだ。
「……戻りましょう」
そう促され、私も本丸へと足を向ける。一歩遅れて主も続く。すぐに追いつくだろうと思っていたが、一向に追いついてこない。訝しんで振り返ると、そこには2人分の長い影。
その手が繋がれていた。
随分と可愛らしいことを。そう思い目を遣ると、主の頬が朱に染まっている。射し込む夕陽のせいばかりではないだろう。本当に、なんと可愛らしいことか。知らず手を取り口付けていた。主の頬を更に朱が染める。隣へ立ち指を絡めた。
「行こうか」
私の言葉に頷いて、おずおずと歩き出した主の指に離さないとばかりに力が込められた。生憎だが、私も離すつもりはない。夕暮れの風が冷たくなってきたはずなのに、絡めた指から伝わるものは温かい。これが愛しさというものか。