第5章 食卓を囲んで
○○は蜂須賀とこんのすけ、そして初めて鍛刀での顕現に成功した刀剣男士の面々と共に、彼らと初めての食卓を囲んだ。
のだが、そういえば、と、○○は箸を持ち掛けて、はた、と気づいた。
(私、挨拶とか全然してないかも!)
かもではなく、確実にしていない。
顕現した瞬間に彼らの方から名乗ってくれた気もするが、○○的にはよく覚えていない…というよりも、作業に没頭しすぎて色々聞き漏らしていたいた感が満載な自分を、少女は今更ながらに自覚した。
集中しすぎると周りが見えなくなる自分の性格は嫌と言うほど分かっているつもりで、気を付けなきゃ、とも思っているのだが、これがまた、どうにこうにも如何ともしがない。
(……じゃなくて…ど、どうしよう……)
今更、直る見込みの薄い(?)自らの性格云々よりも、問題は、これからどうするかだ。
いっそ頭を抱えたい気分の○○だったが、ここでそんなことをしては思い切り不審人物になってしまう…くらいの自覚は当然ある。
半ば固まった状態で、ぎぎぎっ、と音でもしそうなほどにぎこちなく周りを見渡せば、一番近くに蜂須賀とこんのすけがいてくれる。
そしてその向こうに、新たな刀剣男士達……。
この場合、幸い…と言って良いのか、彼らはまだ箸に手をつけていない。
と、そんな光景を見つめる○○をどう捉えたのか、
「主より先に箸に手を付ける不調法者はいない」
唐突に蜂須賀がそんなことを言い出して。
「え……?」
○○は目を丸くした。
審神者は本丸の主人だとか、刀剣男士の主なのだとか、確かにそう言われている…とはいえ、自覚があるかと言われてしまうと目下のところ、まったく全然、ないわけで……。
なのに彼らは、そんな少女が…主が一番最初に食事をするのを待っている、と、どうやらそういうことらしい。
「ご、ごめんなさい、その……っ」
主と言われても自覚がない、こんな自分に、彼らはこんな風に…こんな場面でまで、主を立てているかのようで。
予想外の展開に○○はあわあわと混乱しながら、気にしないで食べてください、と口走りそうになる声を、寸でで呑み込んだ。