第1章 情けない狼~土方歳三編~
「馬鹿言ってんじゃねえぞ。」
「歳さん……」
「俺なんかに着いて来てどうなる?
お前はまだまだこれからだ。
立派な男に身請けされて、いっぱい可愛がって貰え。
それで、これ以上無えってくらい幸せになってくれ。」
「歳さんと一緒じゃなきゃ幸せになんてなれないよ…」
震える声で涙を流し続ける葛葉の肩を掴んで、俺はその瞳を真っ直ぐに見つめて言う。
「俺はお前と一緒に居なくても幸せだ。
さっき言っただろ?出会えて幸せだったと…。」
俺の決意の固さを悟ったのか、葛葉はもう何も言わなかった。
「いいか?負けるなよ。
これから先、辛い事があっても絶対に逃げるな。
俺は絶対に逃げねえ。
お前に恥ずかしくないように最後まで戦い抜く。
……俺達は離れていても一緒だ。」
葛葉の目に少しだけ強い光が戻って、そして力強く頷いた。
「………良い子だ。」
俺が葛葉を抱き締めると、葛葉も俺の背中に手を回し胸に顔を埋めた。
暫くそうしてお互いの温もりを感じていたが、ふと葛葉が顔を上げて囁いた。
「歳さん………抱いて…」
潤んだ瞳とその言葉に俺の心臓が跳ね上がったが、何とかそれを抑え込んで諭すように言い聞かせる。
「……それは出来ねえ。
二度と会えないかもしれねえ俺が、
お前を傷物に出来る訳ねえだろうが。」
「どうして?
歳さんは私の初めての男だって…そう言ったでしょ?」
「あの時と今とでは状況が違う。」
「何も違わないよっ!
初めての相手は歳さんにって覚悟を決めた私を偉いって
褒めてくれたのは嘘だったの?」
「嘘じゃない。嘘じゃねえが………」
「お願い……もう逃げないから……
私に何も残さずに居なくなるなんて……狡いよ。
……歳さんが…欲しい。」
ぽろぽろと涙を溢して縋り付く葛葉の身体を、俺はもう手離す事は出来ない。
「滅茶苦茶にしちまうかもしれねえぞ……」
「うん。……………して。」
もう止まらなかった。