第1章 プロローグ
巻島さんと出会ったのは、
大学三年のときに行ったロンドンで。
半年だけの、語学学校への
ありがちな交換留学で
寮に帰る前に寄ったカフェで
となりの席に巻島さんがいて
一目惚れをして。
「すみません、日本人の方ですか?」
って、旅行先テンションで声をかけて
ちょっと迷惑そうだけど会話をしてくれたのがはじまり。
そこからしつこいと思われたくないから、
毎日は行けなくなって
でも毎日行きたくて
結局、3日おきぐらいに通って
会ったり会わなかったりで
挨拶は返してくれるようになり、
日本に帰る前の週は絶対会いたくて毎日行って
勇気を出してご飯の約束をお願いして
それで一回ご飯に行って
巻島さんのことを少し教えてもらって
連絡先はメールだけきいて
というかんじ。
完全に、旅行先のテンションだったと思う。
帰ったあとにメールして、
「学校がんばってな」と短く返事がきた。
そのあとは年のはじめと、
誕生日にメールをして。
社会人になってからは、
他に代わりがいなさすぎる人だから、
そのまま封印した。
…つもりだった。