第4章 ホワイトリスト
(大きな街…。)
到着した街は以前いたところより何倍も大きく賑わっていた。
(まずは働くところを探さないとね。)
今のモモは一文無しだ。
働かないことには、住むところも食べるものも得られない。
とりあえず病院へ行ってみようと大通りに入ると、もはや見慣れてしまった制服に敏感に反応し、とっさに物陰に隠れた。
(…海軍!)
それも複数人。
彼らはぞろぞろと歩き、辺りを見回しながら巡回している。
「…本当にこの島にいるのか、あのセイレーンが。」
海兵のひとりが仲間に呟いた一言に、心臓が大きく跳ねた。
「ああ、情報だとこの付近の海域で消息を絶ったらしいからな。生きていれば必ずこの島に寄るはずだ。」
モモは息を殺して海兵たちが通り過ぎるのを待った。
彼らが通過し、見えなくなってからそっと改めて街中をよく見回すと、あちらこちらに海兵の姿がちらほら見える。
(どうして、海兵がこんなにたくさん…ッ)
まさか自分を捕まえるためだとでもいうのか。
モモは人目につかないように、スルリと暗い路地裏に逃げ込んだ。
今までだって、見つからないように息を潜めて生活してきた。
けれど海軍や海賊たちに直接的に追いかけ回されたり捕まったりしたのは前回が初めてだ。
存在が知られているだけと、行方が知られているのではこんなにも追いつめられ方が違うなんて知らなかった。
(なんで…、わたしなんかをそんなに捕まえたいの?)
確かに自分には『歌』という特殊能力があるけど、それにしたって海軍は敏感に反応しすぎではないか?
(わたしに何があるっていうの…。)
追われる身という事実を改めて恐ろしく思い、路地裏でひとり、身体を抱きしめてうずくまる。
「なんだ、やけに海兵どもがうろついてると思うたら、そなたのせいか?」
突如、声を掛けられてモモは息が止まるかと思った。
誰もいないはずなのに…!
驚いて顔を上げると、月明かりが声の主を照らした。
いつからいたのか、乱雑に積み上げられた空き樽の上に、灰色のマントを着たひとりの女が座っていたのだ。