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ハコの中の猫 【黒執事R18】

第5章 第5話


「では訊きますが、結衣さんは私をどこまで知っているのですか?」
 耳に当たり続けている吐息が私を抉る。
「……!」
 思考が停止しかかる。
「そもそも、住む世界が違うだとか、釣り合う・釣り合わないとかいうことは、一対一の関係において、あまり意味のない概念なのですよ。今、結衣さんと私はここにいる、こうして触れ合えている。それに、結衣さんも私も、互いを知りたいと、互いに対して興味を抱いています。それでは駄目でしょうか?」
 駄目かどうかはよく分からないけれど、セバスチャンさんの言うことは正しいような気がした。そう。私はセバスチャンさんのこと、住む世界が違うかどうかすらも分からないぐらいに、知らない。でも、知りたいと、強く思ってしまっている。
 セバスチャンさんはそこまで言った後で、その口を私の耳からすっと離す。
 その口が離れた瞬間に、セバスチャンさんの吐息が感じられなくなった。その瞬間から寂しいと思ってしまった私は、おかしいですか?

 胸が苦しくなった私は、その胸のつかえを流すために、自分の目の前にあるワイングラスに手を伸ばす。そしてそのまま一気にぐいっと中身を飲み干す。刹那、頭がふわっと軽くなったような気がした。
 ……意識がふわふわする。ふわりふわり。セバスチャンさんが何か話してくれているような気がするけど、もうあまり耳に入ってこない。いや、たぶん聞こえてはいるんだろうけど、頭がそれを解釈できない、そんな感じ。次第に瞼も重くなってくる。その重みに逆らえない。ここは居酒屋なんだから寝ちゃダメだと思ってみても、その思考回路すら、次第にその動きを失速させていく。私の意識は、一旦この辺りで途切れたのだと思う。
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