第5章 第5話
「では訊きますが、結衣さんは私をどこまで知っているのですか?」
耳に当たり続けている吐息が私を抉る。
「……!」
思考が停止しかかる。
「そもそも、住む世界が違うだとか、釣り合う・釣り合わないとかいうことは、一対一の関係において、あまり意味のない概念なのですよ。今、結衣さんと私はここにいる、こうして触れ合えている。それに、結衣さんも私も、互いを知りたいと、互いに対して興味を抱いています。それでは駄目でしょうか?」
駄目かどうかはよく分からないけれど、セバスチャンさんの言うことは正しいような気がした。そう。私はセバスチャンさんのこと、住む世界が違うかどうかすらも分からないぐらいに、知らない。でも、知りたいと、強く思ってしまっている。
セバスチャンさんはそこまで言った後で、その口を私の耳からすっと離す。
その口が離れた瞬間に、セバスチャンさんの吐息が感じられなくなった。その瞬間から寂しいと思ってしまった私は、おかしいですか?
胸が苦しくなった私は、その胸のつかえを流すために、自分の目の前にあるワイングラスに手を伸ばす。そしてそのまま一気にぐいっと中身を飲み干す。刹那、頭がふわっと軽くなったような気がした。
……意識がふわふわする。ふわりふわり。セバスチャンさんが何か話してくれているような気がするけど、もうあまり耳に入ってこない。いや、たぶん聞こえてはいるんだろうけど、頭がそれを解釈できない、そんな感じ。次第に瞼も重くなってくる。その重みに逆らえない。ここは居酒屋なんだから寝ちゃダメだと思ってみても、その思考回路すら、次第にその動きを失速させていく。私の意識は、一旦この辺りで途切れたのだと思う。