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ハコの中の猫 【黒執事R18】

第5章 第5話


 悪魔は仮初めの自室へ戻ると、その体をベッドへと横たえる。そして、不気味な笑みを浮かべる。
「あの清らかな香り、なんて純情無垢な魂なのでしょう。」
 緋色の眼を細め、鋭い牙の覗く口元から、温かさのない吐息が吐き出される。
 悪魔の脳裏には、今日半日ほど共に過ごしたあの女のことでも浮かんでいるのだろう。蒼白い顔面に浮かぶ恍惚とした表情と赤い双眼は、その悪魔の魔性を嫌でも引き立たせる。
 あの女はこの悪魔の本性はおろか、悪魔は人間を喰らうものであることも知らない。そればかりか、悪魔とは必要に迫られないときであっても甘い言葉で人間を唆し、時として蜜と毒とを巧みに与えては、弄ぶもの。手慰みに、その圧倒的な力で以って人間をいたぶり、彼らを死に追いやることもあれば、性的な意味合いにおいて暴虐の限りを尽くすこともある。悪魔のお眼鏡にかなうような人間であれば、正当に契約を結ぶこともあるが、その契約も悪魔に絶対的な拘束力をもたらすものではなく、彼らなりの美学や気まぐれによって守られるものであるから、決して油断してはならない。まぁ、悪魔の中には人間に入れ込み、その身を滅ぼす者もあるにはあるが、そんなものは極めて稀である。
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