第4章 第4話
「さて、この後まだ時間はありますか?」
「え?」
何だろう。まだ何かあるのだろうか。またからかってきているのだろうか。そういう至極当然の思考回路を、さっきの「可愛らしい」なんていう言葉が麻痺させる。私はきっと、怪訝さと困惑の入り混じったような表情をしているに違いない。
「そんな顔をしないでください。さっきは私が遊び過ぎました。どうか、機嫌を直してはくれませんか?」
セバスチャンさんは困ったような表情を浮かべてくる。こういう表情は反則だと思う。顔の造作が整っているというのは、こういう時に得なんだろうなぁと他人事のように実感する。そう、反則だと分かっているのに、これは少しずるいことなんだと分かっているのに、それを許してしまう私は、やはりどこかで女性なのだろう。いや、女性でありたいとどこかで願ってしまっているのかもしれない。そういう隙が、思い上がりとかを招くんだろうな。そんなことをぼんやりと考える。
「結衣さん?」
セバスチャンさんの声で我に返る。
「え、えぇ?あぁ、もう、いいですよ?そんなに怒っていませんし。」
こんな言葉をあっさりと吐いている私がいる。
「ありがとうございます。」
セバスチャンさんは、その笑みを軽く緩め、言葉を続ける。
「許すことができない人間には、罪が溜まると言います。だからきっと結衣さんは純粋なのでしょうね。」
「そう、なんです、か?」
セバスチャンさんの言葉は、時々どこか空中に浮遊しているかのようで、掴みどころが無い。許せない人間には罪が蓄積するとはどういう意味なのだろう?それに、もしその言葉通り、罪が溜まってしまったらどうなってしまうのだろう。もう、思考がすでにオーバーフローしそう。
「クス。小難しい話はここまでにして、外へ出ましょうか。」