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銀魂短編集

第1章 さよなら、夏の日(山崎)


「あっついー」

日差しが容赦なく照りつけ、蝉の声は煩い。
報告書を書いていた山崎の背後でごろ寝していたから、耐えられないとばかりに悲壮な声が聞かれた。

「仕方ないでしょ、夏なんだから。仕事して、仕事!」

山崎は潰れているの背中に激を飛ばしたが、ほぼ同時に、彼女の仕事は既にほとんど残っていないことを思い出した。
言葉が続かなくなった山崎は、小さくため息をついての横に寝そべった。

せまいー!と言いながらも言葉の端から笑い声が漏れているの隣で天井を見つめる。

「ねぇ、本当にいっちゃうの?」

山崎の口からポツリと独り言のように言葉が出た。
顔は見えないけど、きっとは困ったように笑っただろう。
もう何回も同じやり取りをした。山崎だけでなく、近藤が、土方が、沖田が。
そのたびに彼女は、決めたことだから、とはっきり答えてきた。

政府高官との結婚話。
エリートの妻になりたい訳ではない、夫となる男に恋した訳でもない、むしろまともに話したことすらない。
それでも、自分がこの話を受けることで、松平の面子を潰さず、真選組も恩恵を得る。
はそれを理解している。

「今さら何言ってるんですか、山崎さん」
は明るい声で答える。

今さらも何も、近藤はエリート高官が持ってきた金子をいつでも返せるよう封も切らずに保管しているというのに。彼女がいきたくないと言えば、みんな全力で阻止する、面子も恩恵も関係ない。
それ以上に、自分が彼女に行ってほしくないということを山崎は承知している。
行くな、好きだ、と言えればどんなにいいか。言ったところでが首を縦に振るかどうかは別としても。

「山崎さん」

が囁く。

「私が真選組のために出来る最後の大きな任務なんです」

山崎は、わかるよ、と思いを込めてそっとの手を握った。
の隊士としての覚悟を尊重する。
だから、せめて彼女が美しいドレスを着て祝福の鐘がなるその瞬間まで、どうか恋をさせて欲しい。

その気持ちがに伝わったのかはわからない。
わからないままそっと握り返された手の感触に、天井を見つめる山崎の視界は涙でぼやけた。
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