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FFⅨ Hi Betty! (R18)

第3章 イランイランノキ #1


※ED後


青年は少女を愛していた。
少女が欲する物を与えようとした。少女に欲されようとした。
青年は少女の世界を手に入れた。
少女の全てが青年になった。
青年は臆病だった。



***



「ねえ、シェリー?」

ベッドルームのドアノブにかけた私の手に彼の一回り大きな手がそっと重ねられた。イランイランの香りが仄かに漂う数秒間は催眠術にかけられたかのようにスローモーションで幻惑的だった。

「何?」
「何だと思う?」

彼は天使のように柔らかな表情で微笑む。本当は聞かずとも分かっている。彼の小綺麗で艶やかな天使の皮を被ったこの顔がそうだと言っているのだ。私はこれまでにベッドで、リビングで、時にはキッチンで現在とよく似た妖しげな空気に呑まれ、気付けば彼の腕に抱かれている。催眠術だ。今だって彼の指先は私の指を絡めとり、私を背後の扉へと押しやる。磔にされているかのごとく私の背中はぴたりと木製の扉に密着していた。

「言いたいことは分かった。」
「だと嬉しいよ。」

彼は造作もなく私に頬を寄せた。

「……………」

暫くの間を私の心音だけが繋いでいる。けして何かを待っているつもりはない。しかし、この距離感に何も思わずにいられる程の平静さも持ち合わせてはいなかった。そんな時、私の胸の中はお決まりのように彼にも伝わっている。抜き取られているのだ。私の中核は彼の懐で水晶のように佇んでいて、時々彼はそれに手を這わせ指の腹でトントンと叩く。彼は思い通りに支配しようとはしない。けれど手中には収めている。ゆっくりと眺めながら度々私を揺さぶっては手応えを確かめているのだ。

「いつまで経ってもぎこちないね、シェリー。」

彼は水晶を撫でるみたいに私の輪郭を辿った。



ーーー今回も、落ちた。



ランプの油が切れたわけではない。私の瞼が落ちただけ。視界に映るものは何もない。重なる唇の感触と肌の温もりだけが暗闇の中の唯一の頼りだった。


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