第32章 第31セット
*優side*
貴大に送ってもらったあと、家の中に入ると
お母さんが夕飯を作っていて、鍋をかき混ぜながらおかえりと言ってくれた。
自分の部屋に行かずにお母さんを見ていたからか、料理を作る手を止めて私のところに来てくれた。
母「どうしたの?今日の病院で何か言われたの?」
お母さんとは筆談で話すようにしているから、いつもテーブルの上にルーズリーフがまとめて置いてある。
前に話したことも全部。
今日の分も捨てられずに残される。
何も書かれていないのを1枚手に取り、シャーペンを持つ。
カッカッカッと静かな部屋に文字を書く音が響く。
最後の一文字を書き終え、お母さんに渡す。
《喉に異常はないんだって。
けど、カウンセラーの人が
ちゃんと声を出したいと思っていますか?って
こんなに出したいと思ってるはずなのに
何いけないのかな。
お母さん。つらいよ。》
はじめて、人に言った“声が出ない”事での弱音。
一度零れたそれは、留まることを知らない。