第6章 悪者センチメンタル
早朝4時__。
は未だにあれから眠れていなかった。 シャワーを浴びてからすっかり目が冴えてしまい、それからずっと起きている。 眠れない。
時折、今日見つけた手紙を無意識に読み返しては不思議な思いに打ちひしがれた。
「素敵な人なんだろうな」
それは、手紙を通しての羨望と恋。
可笑しなことには手紙を書いた人物に恋した。 姿も人格も知らないがはいつの間にか恋愛感情を抱いていた。
この人に愛されたアイヴィー・シャムロックに憧れる。 綺麗だったのだろうか。 美しい淑女か。 年齢は? そもそも実在したのだろうか。
考えれば考えるだけ眠れない。
「水飲んで落ち着こうかな……」
は重い身体をベッドから起き上がらせて、そっと部屋を出た。
夜が明けかけているので城の中は薄ぼんやりと明るい。
は食堂の奥にある厨房を目指し、中央階段を降りた……のだが。
玄関ホールのソファーでギディオンがまだ酒を煽っていた。 ダレルの姿はない。 どうやらギディオン一人で酒を呑んでいるらしい。
はつい階段で足を止めたが、ギディオンはこちらに気づいていなかった。
「アイヴィー・シャムロック。 君は何て美しいんだろう。 まるで聖人のようだ」
そして一人、詠うように口ずさまれた言葉の中の名前には目を見開いた。
アイヴィー・シャムロック。 その名前をはよく知っていた。 知らないけれど知っていた。
酔ったギディオンの紅潮した頬と、憂いを含んだ瞳が艶っぽく光っている。
「アイヴィー。 アイヴィー、君は私の最期の恋人」
は自分が羨望を抱くラブレターの書き手がギディオンなのだと、確信した。
震えるように動くギディオンの唇。 酔いに甘えた愛を紡ぐその美しい唇はの目を奪った。