第1章 悪者シンドローム
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「さん、ねえ…………」
ギディオンは目の前で瞳をキラキラさせている少女を見ては苦笑いを浮かべた。
2月14日、それは少女が待ちに待ったGrImMsの入団試験の日。 裏社会のルーツを探るサイトで偶々見つけた入団募集の案内。 は嬉々としてこの応募に乗っかり、試験会場である指定された古城にきていた。
その組織は由緒正しい会社というわけでもなく、はてまた謎の秘密結社とかでもなく、強奪や殺人を働く悪の組織。
「マジでうちに入りたいの?」
だが、はそれに怖気というものを感じさせない表情で、力強く頷いた。
「はい! 殺人とか窃盗はしたことないんですけど、精一杯覚えるので! よろしくお願いします!」
長い机の端と端で言葉を交わし合うGrImMsのリーダーであるギディオンと、。
ギディオンの隣で控えていたロカ・クラウンがクスクスと一人楽しそうに笑っている。
「愉快な子ですねえ、うちを何だと思っているのか分かりませんけど」
「えっあ、あの、私、本気でGrImMsに入りたいんです! ほんとのほんとに!」
「どうしてそこまで……? 此処に入っても殺人と窃盗くらいしかやることないですよ?」
その問いを待ってましたとばかりに、ははっきりと答えた。
「わ、私ずっと悪者になりたかったんです」
的外れな解答が響いた後、大きく品のない笑い声が食堂に響き渡った。
「なんだよそれ! こいつ俺よりバカじゃないの?」
ケラケラと尖った八重歯を光らせながら笑うギディオン。 はきょとんとした顔をしている。
「正義の味方じゃなくて、悪者になりたいとかとんだアホだよな」
ギディオンははっー、と腹を抱えて満足げに息をついた後、ロカに視線を戻した。
「こいつ面白いから一次の面接は合格にしてやりたいと思うんだけど、ロカ、どう思う?」
「……ギディがいいというなら私は構いませんよ」