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FFVII いばらの涙 邂逅譚

第1章 Coming Closer


 ヴィンセントは暫し別の任務に就いていた。どうしても、タークス・オブ・タークスの力を借りたいと頼み込まれて。行ってみれば確かに骨の折れる任務だったのだが、まさか三週間もかかるとは彼自身思ってもいなかった。
 彼は久々にビルの扉をくぐると、その足で研究室へと向かった。
(おいおい、報告と情報共有が先だろう)と自身に対して少々呆れたが、彼女をひと目見て安心したいという思いが優っていた。
 シャロンの研究室へ近付くと、彼女の咳き込む声がする。
彼は急いで彼女の部屋に駆け寄った。研究員達は落ち着いた様子だったが、シャロンは息苦しそうに呼吸も荒く、胸を押さえる手には力が込められていた。

「おい、大丈夫か! ……早く扉を開けろ!」
「ただの風邪だ。彼女は体が弱いんだ。投薬も済んでるよ」
「風邪の苦しみ方ではないだろう」
「あぁ、わかったわかった。感染症だよ。だから扉は開けられないんだ。今日の所は帰ってくれ」

ヴィンセントが素直に引き下がる気持ちにはとてもなれず立ち尽くしていると、シャロンが声をかける。

「ヴィンセントさん、大丈夫……。本当なの、たまに、発作があるのよ……。薬を投じてもらったから……暫くすれば……落ち着くわ」

 シャロン自身にそう言われれば、それ以上問い詰めるわけにもいかない。
しかし、病気の人間を前にこうも平然としていられるものなのか。研究員達の落ち着き払った様子に違和感を感じ、何かが行われたと仮説を立ててもう一度彼女の姿を注視すると、彼女が咳き込んだ拍子に袖口から注射跡が覗く。

「シャロン……」
「ん、ゴホッ……ごめんなさ……い。今は、とても、話せないわ……。ごめん、ね」

 シャロンはヴィンセントの優しさが嬉しかった。正直な気持ちはそうだ。しかし、何かまたよくないことが起こりそうな気がして、懇意にする気持ちにはなれず、彼との距離感が掴めずにいた。

「シャロン、いつか君を迎えにくる……」

 シャロンにしか聞こえない小さな声で、ヴィンセントは言い残していく。
シャロンははっとして手を伸ばす。

「ヴィン、セント……。だめ……」

 彼女を連れて行こうと約束する人は不幸になる。
これまでシャロンを逃がそうとする者は射殺され、好意を持つ者は特殊任務へ配置され、二度と戻ることはなかったのだから。
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