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FFVII いばらの涙 邂逅譚

第1章 Coming Closer


 03と呼ばれる彼女にとっての娯楽は、毎日代わる代わる用意される書物を読むことであった。時に書物から得た知識を世話係に披露する。世話係に褒められるのが嬉しかったのだ。
食事を前に「いただきます」と手を合わせてみせると、防護服を来た世話係の男性は彼女に笑いかける。

「ん、どこの国の文化だ? ええっと、今日の本は何だっけ?」

 一人呟きながら防護服の男性は本を取り上げるが、小首を傾げて元の位置に戻してしまう。
彼女の読む書物は多岐に渡り、得た知識を我が物とすることができる。彼女のその真面目さは一種の才能といえよう。
 外界から隔絶された彼女は、人との関わり合いよりも書物からの知識で自らの人物を形成してきた。そのためか他者とは違う独特の雰囲気を纏っており、他者から見れば視点がズレているのだが、それはまた彼女の魅力であり、外の人間には毒だった。
 食事を運ぶだけの世話係も、彼女の知らないうちに何人も転属している。彼女に興味を抱き、深く関わろうとするためだ。だがそれの何がいけないのか。外の世界では当たり前のこと。ただここでの彼女は科学者達の研究対象であるというだけなのに。その事実は青白い彼女の肌により哀れみを含んだ妖しい輝きを持たせた。


 二度目の食事の後、彼女が一日分の書物を読み終えると、部屋の扉を小さく叩き細い隙間に書物を差し込む。観察員が書物を受け取ると、そこには少し覗けるだけの隙間が出来るので、明日分の書物を待つ間そこから外の様子を窺うのが彼女の日課になっていた。だいたい毎日同じ風景だが、それでよかった。

 だがこの日は、あの"赤い瞳の男"が来ていた。
この部屋は、地位の高い人間が来るときには扉の小窓が開けられ直接会話することが出来るが、彼の場合も同じだ。
 彼が扉に近づくと、彼女は扉から離れる。彼女は彼が苦手だと感じていた。どういうわけか、彼に見られると居心地が悪い。
小窓が大きく開けられ、彼が声をかけてくる。

「調子はどうだ……。食事はとっているか?」

 彼女が小さく頷くと、男の仏頂面が和らいだ。少しの間目を合わせる。深い赤色の瞳はとても印象的で、記憶の奥底に焼付くような感覚を残した。この得体の知れない感覚が恐ろしく、彼女はすぐに視線を逸らしてしまう。失礼だったかしらと後になって後悔するのだが、再び顔を上げると彼は立ち去っている。いつもそうだ。
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