• テキストサイズ

FFVII いばらの涙 邂逅譚

第1章 Coming Closer


 脳内に水音が流れる。息苦しさを感じ、わたしは慌てて目を開けた。
しかし視界に広がるのは無機質な金属。はっと辺りを見渡す。ああ夢だ、わたしは溺れる夢を見たのだ。さて合点がいったが、何故自分はここにいるのだろう。もう一度辺りを見回すと、自分の寝そべるベッドの他に机と椅子、パーテーション、そして奥にはひとつ扉がある。
 ただ、記憶を辿るも何も思い当たらない。どういうわけか自分の名前、過去、家族など自分を形成する情報も何一つ思い出せなかった。話し方や歩き方すら曖昧で、しかし立ち上がれば無意識に歩くことができたし、言葉の発し方も言語も理解できた。
 それでもやはり今ひとつ情報が足りない。好奇心から視界の先にある光る扉に近づいてみる。
怪しみながら扉に備付けられた小窓に手をかけ隙間を指で叩く。すると小窓が勢い良く開いたので、わたしは驚いてのけぞった。扉の向こうからぷっ、と吹き出すような声が聞こえてきて、白衣に身を包んだ男性が隙間から此方を覗き込んだ。人間の姿に安堵するのも束の間、男は淡々と施設の説明や過ごし方を指導し始める。男の事務的な態度はわたしに些細な孤独感を味わわせた。
 そして一通り話し終えると小窓が再び閉ざされ、目の前にはノブの取れた扉のみが残る。わたしは自分の置かれた境遇を少しだけ察したような気がした。

 それから数日経てば、この小さな豆球に照らされながら毎日のルーチンをこなす生活にも慣れてくる。何の為にここにいて、何の為に生きているのか、時々その疑問を思い出し空想にふけることもあるが、答えが見つからないのですぐにやめてしまった。三度の食事と、適当な娯楽として書物が与えられ、午後には身体や知能の測定を行う。
 何故悲観的にならずに過ごせてきたのか、それは親切な世話係の存在が自分の境遇を少し忘れさせてくれたからかもしれない。

「ゼロスリー、食事の時間だよ」
「ありがとうございます」

 毎日決まった時間帯に、防護服を身に付けた世話係の男が食事を運び込んでくる。彼らは防護服を着ている以外は普通の人と同じように接してくれていた。


——No.03 記憶データ
/ 120ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp