第5章 電車、滑り落ちる、ヘッドフォン
いつの間にか目の前に
電車は滑り込んでいて
扉は開いていた。
降りる人、乗り込む人たちが
交互に扉をくぐっていく。
その波に押され私も電車に乗り込む。
ふっと、後ろのベンチに視線を向ける。
忘れ物がないか、確認をしてしまう。
その瞬間、あぁっと思う。
ここにも彼の癖がうつっている。
ベンチを目に焼き付けながら
忘れ物がないか……
もう未練はないか、
自分に問う。
無い。
っと言えば嘘になる。
でも、大丈夫。
今日からは
もう別の道を行くのだ。
少しずつでいい、
少しずつ受け入れていこう。
心の中で
“さよなら”
と、つぶやき電車が動きだす揺れに
身をゆだねながら目を瞑った。
fin.