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love songを奏でる日々【短編】

第1章 夜の街


ついにこの日が来てしまった。

受験、卒業式。

そんなばたばたとすぎる日々の中で
考えないようにしていた。

“明日、私たちは
別々の街へと別れる”

ずっと考えなかった
なにも触れなかったし、
触れられもしなかった。

でも、明日は必ず来る。

午後22時
なぜか不安に駆られる。

不安をぬぐいたくて
夜の街へ駆け出した。

いつもの公園。

考えれば考えるほど
不安は胸を押し付ける。

夜風が頬をすり抜ける。

弱い自分がささやく。

このまま…
このまま終わりにしてしまったら
楽になるのではないか。

これから不安は
大きくなるばかりだろう。
それなら、いっそー。

握りしめた携帯電話
一言、メールを打つ

すぐに返信は返ってくる

数分後、
いつもの笑顔で
彼はやってくる。

いつも通り
そう、いつも通り


ベンチに2人座り軽く手を握り
他愛もないことを話す。

会話の合間、相槌を打ちながら
私は考える。

“不安なのは、私だけ?”

それが、余計に私を不安にさせる。



「ねぇ。」
意を決して、言葉に出す。

「私たち、さ」

少し震える私の声を遮るように

「別れないからな、俺たち。」

まっすぐ前をみて放つ一言。

あぁ。
何てことだろう。
私の決意も不安も
全部お見通しだったのだろうか。

依然として私を見ずに
前だけをじっとみる彼の瞳は
どこか不安気で、
でも、揺るぎなくて

「俺たち別れないからな...」

っと自分に言い聞かすように
二度同じことを呟く。

握っていた手に
力が入るのを感じながら

私は彼をちゃんと見ていなかったのだろうか。

堪えていないと涙が溢れそうで

「まだ、何も言ってないじゃん…」

と、言うのが精一杯だった。

あぁ、時間が止まればいいのに。

見慣れたこの風景
彼の優しさ

ずっと触れていたい


そして私たちは
別々の街へ旅立つのさ。


fin.
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