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【ハイキュー!!】青春飛翔論

第17章 コンプレックス×ロマンス【矢巾秀】


幼馴染ほど、狡い関係はない。
美咲先輩は及川さんに気を許しているし、及川さんも美咲先輩に対して甘い。
性格や好みは合わなくとも、俺の見えないどこか奥底で理解し合っているような。
十何年の付き合いと1、2年の付き合いとで、違ってくるのも当たり前の話だ。
だからこそ、狡い。
俺は、どんなに頑張ってもその差を埋められない。
言わなくとも察せざるをえない2人の間に、俺が入る隙はない。
結局、俺には何もないのだ。

「ねぇ本当に大丈夫?やっぱりまだ体調悪い?」
「いえ…大丈夫っす、すみません」

体調が悪いならその原因は貴女と貴女の幼馴染のせいです、なんて言えるわけもなく。
はは、と俺は軽く笑って見せた。
美咲先輩は少し疑うように、そう?と言って俺の目を覗き込むように見る。

「大丈夫です。本当っす」

俺がそう言うと、美咲先輩はふっと表情を和らげた。
そして思い出したように、あ、と口を開く。

「そうそう。矢巾くんが倒れた後、まっつんがボソッと『及川のウザさはとうとう人を殺めたか…』って」

美咲先輩は声を真似ながら言う。
及川、というワードに反応しないよう平然を装う、俺。

「勝手に殺さないでほしいっすね…」
「金田一くんはオロオロするし、『え、俺のせいなの?!』とか及川はうるさいし」
「あー…想像できます」
「もー、こういうとき本当に頼りになるのは岩ちゃんとマッキーね。他はなんというか…うん」

やれやれ、と美咲先輩は困ったように眉を八の字にして、肩をすくめた。
その表情がすこし可愛くて、俺はクスリと笑みをこぼす。
先輩はそんな俺の顔を見て安心したのか、すぅ…っと目を優しげに細めた。

ーー好きだなぁ。
普段はしっかり者のこの人の、時折現れるフワッとした雰囲気が心地よくて。
最初は先輩ということもあり、綺麗な人だなぁという感想以外は何もなかった。
けれど、何度も会話を交わして、ただの真面目な人じゃないと知り。
この人の纏う空気に触れていくうちに、自分の中の特異な感情に気付いてしまった。



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