第2章 嵐の夜の訪問者
ならば治療法や薬なんて必要ないのだから誰も作りはしない。
数年たった今になって珀鉛病に関する薬なんてあるほうがおかしいのだ。
「嘘だろ?!病院は何件も回ったってのにそんな薬があるなんて誰も言わなかったぞ!」
「そりゃあそうでしょうね。私が独自に開発した薬だもの。誰も知らないわ」
「なんでそんな物…それに、珀鉛病が伝染病じゃないことも知ってた。お前、何者なんだ?」
「私は…っ…」
言いかけた言葉が喉で詰まる。
聞かれたら答えようと思っていたのに、いざとなるとなかなか出ない。
『バケモノめ!』
『こっちに来るな!』
『殺せ!逃がすな』
殺せ!
殺セ!
コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ
「おい!大丈夫か?」
「…!え、ええ」
男の声に我に返れば冷や汗が背中を伝っていた。
「言いたくないなら言わなくていいんだぜ」
言いながら頬に添えられた手が暖かくて、柔らかくて、胸の内を圧迫していた物がすっと軽くなった。
「ううん、聞いて。知ってほしいの」
「?」
「私は……」
意を決してシャツのボタンに手を掛ける。
「…私もあの子と同じ、珀鉛病なの」
ボタンを外し、胸元を見せると男は目を見張った。
メイサの胸にも、ローと同じ白い痣が広がっていた。