第10章 「殺せんせーなら、認めてあげますよ」
私は烏間先生たちの尾行をやめて、殺せんせーの姿をじっと見つめていた。
―――ザッザッ
私は殺せんせーの方に足を進めて行った。
「おや、市ノ瀬さん。みんなと一緒ではないのですか?」
「はい、というかさっきから気付いてたんでしょう?私のことも、烏間先生たちのことも」
「えぇ、まぁそうですが。物には段取りというものがあるでしょう」
私の言葉に的確に返してくるその様はまさに『完璧な先生』だった。
「殺せんせー」
「はい、なんでしょう」
私はじっと殺せんせーの小さな目を見つめた。
「私、先生なんてお金のために動くロボットのようなものなんだって思っていました」
「・・・」
殺せんせーは黙っている。
「でも…」
私は話し続けた。今、殺せんせーに伝えたいことを。
「殺せんせーは生き物だったみたいです」
そう言って私はニコリと笑った。
「そうですか。そう思ってくれて先生は嬉しいです」
殺せんせーは優しく言ってくれた。
「でも私、1つ分からないことがあるんです」
「何ですか?」
「私、殺せんせーをE組のみんなで殺したいんです。何でですか?他の人に殺されるのがイヤだ。自分で殺したい。自分たちで殺したい。そう思うんです」
私はまっすぐとそう言った。
「それは良いことですよ。先生は地球を破壊しようとしているモンスターですから」
「でも、いくらそんなモンスターでも…きっと自分の信頼している人だったら…殺せません」
「でも、殺したいと思うのですね?」
「…はい」
「市ノ瀬さん。君はとても優しい生徒だ」
「…違います」
私は否定した。
否定しなければいけなかった。
だって私は汚れた子。
あの二人の遺伝子が、あの二人の血が流れている。
「なにが違うのです?あなたは先生のことも、地球のことも考えているのです。その上で悩んでいる」
「違います!!!」
その場に静寂が訪れる。
「い、市ノ瀬さん…」
殺せんせーも私の泣きそうな顔を見て動揺しているようだ。
「私は…きっと…100億が欲しいだけなんですよ…」