第9章 イリーナ・イエラビッチ
「ヘイパス!」
「ヘイ…暗殺!」
休み時間、殺せんせーとみんなで遊びながら暗殺をする。
小学校に戻った気分になる。
みんながとても楽しそうで思わず笑みがこぼれる。
赤羽くんも一緒になって暗殺をしている。
「…っ」
登校の時の思いが心の中で繰り返される。
『私は赤羽くんとは違う存在。同じ人間でも、違う』
そう、私は人間。
『汚れた人間』
だって、『あいつら』の血が流れているんだもの。
今までの記憶がよみがえる。
お金、それが全て。
私は愛情を知らない。
抱きしめられたり、頭をなでてもらったり、子守歌を歌ってもらったり、そんなのは、ない。
お金、たくさん聞いてきた言葉。
お金のことしか考えない。
それがあいつら。
だったら
私も同じ。
同じ血が流れているんだもの。
「ののちゃん?どうしたの?」
後ろからカエデがひょこっと顔を出した。
あぁ…こんな風になれたら…
「ううん、何でもない。ただ、考えことをしてただけ」
「あ、まぁたアニメのことでも考えてたんでしょ~?」
「えへ、バレた?」
私は悟られないように笑って見せる。
そうだ。
私はこうでなくてはいけない。
こんなクズが幸せを手に掴んではいけないんだ。
「殺せんせ~、殺せんせ~」
ふとイリーナ先生の声がした。
手を振りながらこちらに駆けてくる。
「烏間先生から聞きましたわ、すっごく足がお速いんですって?」
「いやぁ?それほどでもないですねぇ」
「お願いがあるの…1度、本場のベトナムコーヒーを飲んでみたくって…私が英語を教えている間に買ってきて下さらない…?」
身体を密着させて、上目遣いで殺せんせーを見ている。
「お安いご用です♡」
殺せんせーは顔色をピンクに染めている。
「ベトナムにいい店を知ってますからン♪」
そういうとマッハでベトナムまで飛んで行った。
――キーンコーンカーンコーン
休み時間を終わらせるベルが鳴った。
「…で、えぇとイリーナ?先生。授業始まるし、教室戻ります?」
「授業…?あぁ、各自適当に自習でもしてなさい」