第1章 拾いもの
「ご注文はお決まりでしょうか?」
『じゃあ、カフェオレをひと……ふたつで。』
「かしこまりました。少々お待ちください。」
(はぁ………。)
店員が注文を受け、厨房へと姿を消したところで私はやっと息を吐いた。
こんな時間では、営業している店も限られてくるため、私は確実に開いていると思われる24時間営業のファミレスへと足を向けた。もちろん彼を連れて。
ちょうど空いていた角の席を指定し、4人がけの席に彼と向き合う形で腰を下ろした。彼が何を頼むか聞くべきか、一瞬迷ったが早く息をつきたかった私は彼の分も自分と同じものを注文した。
その後、雪で濡れて役目を果たさなくなった彼のコートを脱がせ、話は本題へと移った。
『あの…さっきの言葉はどういう……。いきなり聞くのもどうかと思うのですが、状況が状況だから…』
聞いていいものか正直戸惑いもしたが、やはり聞かなくては何も解決しないと思い、意を決して彼に尋ねた。
しかし、やはり戸惑いが声に表れてしまい少々声は震えてしまった。
「ごめんなさい。俺…迷惑かけてるよね…。やっぱり…あなたに迷惑かけるわけにはいかないから…別のところに行く。」
『えっ?!ちょっと…!!』
寒空の下、今度はコートも羽織らずその身一つで外へと歩みだそうとした彼の腕を引き、元いた場所へと座らせる。
未だに目はうつろで表情の変化もほとんど見られない。話が全く進まず、何と声をかけようか行き詰まっていると目の前に温かな白い湯気が立ち上った。
『とりあえず、これ飲んでください。きっと、温まると思います…。』
またいきなり出て行かれては困ると彼にカフェオレを勧めるが、一向にカップに手をつけようとしない。
もしやカフェオレが苦手だっただろうか、それとも猫舌だから冷めないと飲めないのか、などといくつか見当をつけてはみたがやはりどれもピンとこない。また黙り込み、微動だにしなくなった彼を見て小首を傾げていると、
「俺…行く宛ないの…。だから、あなたの家に置いてくれない…?」
突然彼から発せられたこの一言からだった。ほんの数十分前までは想像もしなかった、真っ白でどこか温かな彼との不思議な同居生活が始まったのは。