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シンデレラと白雪姫

第1章 Another World


「ちょっとそこのカタログ片付けといて。ああ、お昼から百貨店の外商が来るから応接間を念入りにお掃除なさい!髪の毛一本でもあったら承知しないわよっ」

指に醜悪な指輪をいくつもはめた恰幅のいい中年女性が何者かに向かって指示を飛ばす。
程なくして若い娘が掃除機やその他掃除用具を持って応接間なるところへ駆け込んで行った。

「おいお前、これにアイロンかけとけって言ったろ?バーでバイトなのにくしゃくしゃのシャツじゃ格好つかねえっての。」
大学生だろうか?こちらも口角泡を飛ばして先ほどの若い娘に文句を言う。
「ちょっと兄貴聴いてや!うちのドレスワンピースもぐっしゃぐしゃ!今日はインテリの来る合コンやのにこれじゃ行かれへん、どないしよ!!ママ〜!またシンデレラが仕事サボっとる!!!!!」

そう、彼女は皆さんご存知シンデレラ。
しかしおとぎ話に出てくるシンデレラは料理と掃除と洗濯をきっちりこなすしっかり者の娘だが、こちらのシンデレラは一筋縄ではいかないらしい。
今のご時世で学校に行っていない17歳は珍しい、うちも勉強して将来は海外でバリバリ働いて稼ぎまくる、というのが現在の彼女の叫びである。
勉強嫌いの兄弟姉妹は現在父が刑務所に囚われているにも関わらず、私立の学校に通ってる。どこからその費用が出ているのかは家中の謎で継母がヤバイ商売をしていないことを心から願うばかりである。
「あーあ、やっと終わったわ応接間。次はアイロンか。」ドレスワンピースを見た彼女はプッと吹き出した。「露出狂やんこの服。ねえさん趣味悪っ!見えるか見えへんかの微妙なのがそそる、て聞いたことあるんやけどな〜これやとインテリ落とせへんで。」
低温でアイロンをかけていく。
9歳からは確実にこの屋敷の家事の一切合切を背負う彼女は実はこの家の子供だとは誰にも思われていない。
500メートル先のお隣さんも、200メートル先のマンションのどの部屋の住民も彼女の姿を見たことがないからである。
「兄様、姉様、お召し物仕上がりましたよ」
返事がないのはいつものことなので目につくところにかけておく。
昼ご飯はっと。ホワイトボードを見て書き込まれた料理を作る。この家の住民はカルボナーラをご希望だとか。小麦は体を冷やすのにまあ好きだねぇ。シンデレラは呟く。和食が一番なのにね。
大鍋にお湯が沸き、5人分のパスタが投げ入れられた。
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