第4章 唯一の国
「納得いかないッ!怪我をさせられたのだぞ!!」
「あの時は、私が自ら怪我をしたまでです。ですが…今回は、別ですね…。」
柚姫は、そう言って刀を抜く体勢へと入る。柚姫の瞳には、怒りという感情を表していた。
抜く体勢を取っても杲良は、なかなか引かない。その時だった。
「そこまでです。杲良様、お引き取り願いましょうか。」
落ち着いた声が聞こえ、皆の動きが止まる。そこには、もう1人の男性が現れた。見た目は、静かなのに雰囲気は怒りを表していた。瞳には、冷たさを表している賢次。
その様子を見て柚姫は、刀を抜くのを止める。だが、杲良は剣を鞘にしまおうとはしない。その瞬間、賢次は一気に杲良との距離を縮め、刀を抜き取り杲良の首もとに突き付ける。
「お引き取り願いましょう。これ以上…姫様に近付いたら、貴方様の首が落ちます。」
脅しではない…賢次は本気だった。賢次の瞳には殺意を浮かべていた。柚姫は、止めようとしない。様子を見ているだけだ。
「この僕を殺すのか?!止めろッ!!」
「申し訳ございませんが、杲良様の命令は聞きません。私の主は貴方様ではないので…。」
キラン…と鋭く光る賢次の刀。杲良は、ゴクリと唾液を呑み込む。遠くの方からコツコツという足音が聞こえ、刀をしまえ…という声が聞こえた。その方向を向くと、柚姫の兄…光瑠がいた。
「何の騒ぎだ?とくに、叔父上に聞く。何故、何処も行ってないのに剣に血が付いてる?」