第1章 忘却は幸福ですか、
ドギーは寝返りをうった。
薄暗い部屋。カーテンが開かれた窓の向こうで、いくつものシャボン玉が空を舞っている。それを背景に愛しい恋人、不死鳥・マルコは静かに寝息を立てていた。
父である白ひげと、末弟・エースの死。この大きな出来事に押し潰されそうになったマルコは、ジャボンティ諸島へやって来、心に出来た大きな穴を埋めるかのように、ドギーを求めた。
壊れそうな程の愛情・快楽を与えられても、父と弟が還って来るなんてことはない。もちろんマルコにだってそれはわかっていたが、馬鹿みたいにドギーと体を交え、最終的には疲れて深い眠りに落ちた。
そんなマルコの頬に、ドギーは手を伸ばす。ちゃんと食べていないのか、少しだけ痩けた気がする。
「マルコ……」
「っ、ん……」
ピクリと眉間に皺がよって、金色の睫毛がゆっくりと動いた。深海のような澄んだ青色に、ドギーの顔が映る。以外とマヌケな面をしている、とドギーは感じた。
数回瞬きした後、マルコは安心したような表情を見せる。それから猫のごとくドギーに擦り寄った。くすぐったくて、思わず笑みが零れる。
「どうした、マルコ?」
「変な夢、見たんだよい……」
ポツリ、と。マルコは呟いた。