第1章 不死鳥
▼不死鳥
マルコと元天竜人。
ずいぶんと昔の話だ。兄に読んでもらった絵本の中に、幸せの青い鳥の物語があった。
私はその本を読んでもらって、本当に青い鳥はいるの?と兄に問うた。兄は白い歯を見せながら「もし本当にいるなら、捕まえてやるぞえ」と笑いながら言ったのを、よく覚えている。
「結局、青い鳥はいなかった……」
喉はヒリヒリと痛く、酷く嗄れた声。兄に「綺麗」褒めてもらった声音は、もうどこにもない。
不思議と、涙は出て来なかった。家族を失ったせいで、枯れてしまったのかもしれない。
「ん?」
突然聞こえた低い声に、私は視線だけを上げた。青い空を背景に、男の人が私を見下ろしている。黒い影が、私を覆う。
「生存者かい?」という問いかけに、私は何も答えることが出来なかった。男は無言の私を見て、むむ、と首を傾げた。少しの間、沈黙が落ちる。
「見た感じ、生きているようだねぃ。オメェさん、何者だい?」
「……」
「黙りなのか、口が利けねぇのか……。まぁ、これからの反応を見たら、分かるよねぃ」
笑みを浮かべると同時に、男の身体に変化が起こった。
腕が洋服と一緒に、蒼い炎に包まれる。サンダルを履いた足は、黄色く変色し人の物ではない、鋭い鉤爪が姿を現した。
「……っ、青い、鳥」
ピクリ。男が反応した。怪訝そうに見下ろす瞳をまっすぐ見つめ、さらに続ける。
「幸せの、青い、鳥……!」
私の胸はときめいた。青い鳥を兄と探した日に戻ったかのように。
「悪りぃが、俺ァ“幸せの青い鳥”じゃねぇよい。ただの人間だ」
「でも私は今、ちゃんと幸せになれた。大好きな兄様と、一緒にいれたみたい……!」
ふふっと漏れた声に、私は思わず口元を押さえた。自然に笑うなんて、あの日以来ないことだ。
驚く私に、彼はポツリと呟く。
「俺と一緒に来るかい?」
「え、」
「嫌ならいいんだよい」
「……行く」
それは自然と出た言葉だった。
彼は私の返事に「そうかい」と笑顔で返すと、ボロボロになった私に近付く。そしてアッと言う間に青い鳥の姿になると、私を大きな足で掴んで空高く舞い上がった。