• テキストサイズ

【ヘタリア】周波数0325【APH】

第32章 回帰と代入と


などと思っていると、アーサー(偽)のふらつきがピタリと止まり、次の瞬間、こちらめがけて激走してきた。

その顔はうつむきがちだが、凄まじい、真顔だ。

「ヴぇ、ヴェエエー! あいつこわいよお!」

(お前の方がこえーよ!)

と何人がツッこんだかいざ知らず、猛追してくるアーサーには「キモイ」と「怖い」を同時に感じられる恐怖を覚えた。

「そこの三番目の街路樹だ! 急げっ!」

振り返りざま、アーサーが叫ぶ。

目標地点はあと数十メートルにまで迫っている。

が、私を抱えるロヴィーノが、追いつかれる前に間に合うかは、ギリギリのところだった。

ロヴィーノから飛び降りても、この体調では足でまといになってしまう。

「早く!」

一足早くついたアーサーが、鋭い声とともに手を伸ばしてくる。

もう片方の手は街路樹に添えられていた。

「兄ちゃん!」

「行け!」

スピードを少し落としてぐずるフェリちゃんに、ぴしゃりと声を飛ばす。

ひぃ! という顔をしたフェリちゃんは、一瞬のためらいののち、加速、アーサーの手を掴もうと手を伸ばす。

私たちもあと数歩のところで、突然――背後の足音が消えた。

刹那、ぶ厚いガラスに仕切られたように、音が曇る。

やっと着いたのか、ロヴィーノの歓声じみた声も、まるで水中のようにくぐもっていた。

その永い一瞬に、ゆっくりと振り返る。

かたりと倒れる視界の最後に、私は、はっきりと見た。

走るをやめ、真っ直ぐ立ち尽くす“彼”の。

(え……?)

その頬に、透明な雫が伝うのを。
/ 378ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp