第13章 SPECIAL STORY
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靴箱の前で、ナイキのエアフォースに履き替えて、リュックに掛けたスケボーを地面に落とす。
鬼風紀員が居ない事を確認して、滑り出したはずだったのに。
「校則違反、ですね?」
ぐん、と勢いよく私のリュックを掴み、慣性で滑り出そうとするスケボーを右足で停めた泉が
小さく笑った。
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「徒歩下校も悪くないでしょう。」
「…そーですね」
仲が悪いわけではないのだが、こういう所にきっちりしている泉はやっぱりちょっと面倒くさいと思うのが本心で。
「もうすぐ留学なのですから、この町の風景をしっかりと目に焼き付ければいいじゃないですか。」
ゆらゆらと9月の風に吹かれて、泉の髪が揺れる。
(おっとこまえだな…)
ぼんやりその横顔に見とれていると、泉が不思議そうに私を見たあと、小さく笑った。
「…わかりやすいですね、あなたは」
「え?なにが?」
「今日は随分とよく泣いたようで。」
私は驚いて、慌てて頬をこする。
「目の色で分かりますよ。」
泉は呆れるようにそう言い、ため息をついた。
「でも、嬉しい涙のようで、なによりです。」
「…みて、た?」
「何の話ですか?」
泉はメガネを一度上げて、不思議そうに私を見た。
(この顔は、見てない、んだろうな)