第1章 檻
「蓮水の屋敷に軟禁され、一歩も外の世界を知らぬと聞いているが。本当か?」
「……はい。軟禁と言ってしまうと聞こえは悪いですが、本来はそのようなことは御座いません。ただ……きっと、蓮水家もまた雪村家のようにならぬようにと、身を潜め安息を求めた結果がこれなのだと思います。私も、一応は貴重な女鬼でありますから」
「……俺と共に来い、志摩子。外の世界を、お前に教えてやる」
風間は掴んでいた手を離すと、立ち上がる。そして徐に、志摩子へと手を差し出した。
「今此処で俺の手を取らなければ、お前はもう二度とこの屋敷の外に出る機会は訪れない。俺がお前を諦めた所で、お前の行き着く先は何も変わらない。所詮また、別の鬼がやってきてお前を嫁にするだけだ」
「……千景様」
「ならば、俺と共に来い。俺以上に、お前に相応しい男はいない」
「……随分と、大胆で強気な発言ですね」
志摩子はくすっと笑う。まるで口説き落とそうと言葉を手繰り寄せ、自分に向けてくれているような……志摩子にはそんな風に思えた。それが器用であろうと不器用であろうと、確かに志摩子の胸の奥は震えた。