第32章 翼
「報告しろ」
「はっ」
山崎が頭を下げ、事の成り行きと流れを話し始める。度々志摩子や斎藤が口を開き、補足をしていくのだった。その場で同時に、伊東が死んだことも告げられた。志摩子は顔を歪めて俯くしかなかった。どうしようもなかった。その言葉が、一番に当てはまるだろう。
「はぁ……とにかく、随分派手に隊士達がやられたもんだ。死んだ奴も多い、いや寧ろどちらかと言えば怪我人の方が多いか」
「申し訳ありません……」
「いや、志摩子は謝る必要はねぇ。油断した俺達の責任だ。手薄なつもりじゃなかった、山崎も山南さんもいる。不十分だったはずはねぇんだ。この落とし前は、必ずつけてやる」
「副長、差し出がましいとは思いますがこれからどうなさいますか? 平助も、今は処置が済んだものの傷は深い。長くは……ないと」
「そうだな。平助には……選んでもらうしかねぇだろう」
それが何を意味しているのか、誰も口にはしなかったものの、わかっていた。人間として死ぬか、羅刹として生きるか。藤堂が生き残る道は、最早一つしか残されてはいなかった。
「それよりも俺は、一つ決断しておきたいことがある」
土方は志摩子へと視線を向けた。