第31章 絆
「お、おい!? 千鶴!?」
「屯所に戻ろう! 斎藤さんの勘が当たるっていうのなら、志摩子さんを助けに行かなくちゃ!」
「……平助、諦めろ」
「……ああ! もうっ……。勝手にしろってのっ!」
涙交じりの藤堂の声が聞こえた気がした。千鶴は嬉しそうに、ただそんな彼を見つめながら走る。夜の闇を掻き分け、心なしか斎藤の足は二人よりも早く前を走っていくように思える。
斎藤の胸の奥を乱す嫌な予感は膨らんでは、僅かな焦りを彼に与える。
――何もなければいいが。
心の中で、彼は願う。
彼らがいた場所から屯所は、そこまで遠くはない。けれど急いでいる今は、とても遠く感じてしまうものだ。息を切らし、その場にいる誰もが何もないことを祈りながら必死に走っていた。
◇◆◇
志摩子達が天を視界に入れた時、彼の足元には無数の隊士達の死体が転がっていた。
「姉様……何処に居ても、姉様の悲鳴なら俺は聞き取ることが出来る。でもね、痛いんだ……割れるように頭が痛いっ!! どうしてかな? 姉様に危険が及ぶと、ボクの頭は凄く凄く痛くなるんだ! だからもう永遠に危険のないところへボクと行くか、死ぬか選んで!!!」
狂気に塗れた天の瞳が、今度は志摩子達を獲物だと告げるように構える。すかさず山崎は抜刀し、志摩子を庇うように天と対峙する。