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薄桜鬼 蓮ノ花嫁

第24章 春



「何度でも、桜は花をつけ咲き誇る。けして折れない、まるで今の彼らの心のようですね……」

「京で見る桜は、これで何度目になるだろうか」

「……っ、一様」


 ふと聞こえて来た声に、振り返れば斎藤が荷を持って現れた。本当に、もう行ってしまうのだ。現実がそこにある。志摩子は真っ直ぐに、斎藤と視線を絡めた。


「新しい季節と共に、様々なことが変わっていく。世も、人も、等しく」

「変わってしまわれたから、此処を去るのですか?」

「お前は……残るのか」

「はい。私は新選組と共に、在りたい。そう思っております」

「そうか……ならばその心、大事にするといい。志摩子は以前、変わらないものこそ信じていると言ったな」


 風に舞い、桜が散る。花びらは二人の姿を他の者達から隠すように、吹雪いては宙を舞う。


「俺も……変わらないものをこそ、信じている」

「私が行かないでほしいと、そう口にしても……行ってしまわれるのですね」


 斎藤は志摩子へと手を伸ばす。彼女の髪について桜の花びらを取り去ると、花びらを見つめそっと胸に抱く。


「その言葉は、いつか訪れる最も大切な者との別れの時……口にするものだ。志摩子が今、俺のために伝えるべき言葉は、何もない」


 斎藤はそのまま背を向け、歩いて行く。抱きしめて、引き留めてしまうことはきっと何よりも容易い手段だろ。けれど志摩子は目を閉じて、彼の足音が去っていくのを黙って聞いていた。

 視界に入れてしまえば、きっと……泣いてしまいそうだったからだ。

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