• テキストサイズ

信長行進曲-nobunaga march-

第2章 問うに落ちず 語るに落つ



「ふーん…お前がこの間、俺を殺そうとした信行か」
(……本人にそれを聞くのか!)

開け放たれた木戸の反対側に控えていた恒興さんも肩をぴくりと震わせた。それは余りにも無防備な言葉だった、お前がこの料理を作った奴かーとかそんなノリで言って良いものではない筈だ。信行様の纏う雰囲気が動揺に揺れたが、端然とした態度を崩さないのは流石だ。他人を使って兄を蹴落とそうとした人間なだけある。

あ、今更だけど俺は信行様が嫌いだ。サブローを殺そうとした時点で俺の志の妨げとなっているんだから当たり前の感情だと思う。俺は信長を生かし、支え、天下を敷くまでの助けとなりたい。それを邪魔する信行様に好意など抱ける筈もなかった。では失脚を望むのかと問われても恐らく是とは答えないけれど。いつか仲直りをする日が来て、兄弟皆で支え合って織田を盛り立てていってくれたらと思う。……史実はどうだっただろう。こんな時に学の無い己が恨めしい。

「――…何を言っておられるのかわかりませぬ…」
「俺、兄弟で争うなんて、良くないと思います」
「信行には心当たりがございませぬが…」

噫、やっぱり信行様をすきになれそうもない。強かに追及をかわそうとする姿勢とその肚積もりが。人を殺める為の教唆は認めた途端に罪となるが、証拠がない限り追い詰めきれない罪でもある。この時代に声を録音する機械なんてハイテクなものはない訳だし、物的な証拠さえなければ逃げ切れるって訳だ。実権を握るものが居ないこの場は信行様に有利に働いた。権力は証拠すらを凌駕して彼に何らかの制裁を与えられるのだが、権力はトイレ中だ。シット。

「これからは仲よくしようね! 信行くん」

今はただサブローのこの一言で信行様が少しでも戦いてくれれば儲けモノだと願うより他ない。争いから縁遠い場所より転がり落ちてきた人間の何気無い言葉が、どれほど不気味なものであるかは、同郷の俺にしてみたら理解できなかったけれど。



第2章 第五話 完
/ 96ページ  
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:なごんだエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白い
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp