第3章 彼女の言い分
暇だから。
それだけの理由で本屋に立ち寄ったところ、見慣れた顔に出会った。
藤崎キョー。中学生以来の友人だ。
あの頃から彼女は本の虫だった。
本屋で出会うなんて彼女らしいといえば彼女らしい。
「キョー!キョーでしょ? こんなとこで何してんの?」
「あー、トモちゃん久しぶり。同窓会以来だね」
相変わらずの優しい笑顔でそう答えた彼女。手には大きな紙袋。
そんな大量の本を買って読む時間があるのだろうか。
彼女は中学時代、2年の後期くらいからずっと図書館に引き篭もりっぱなしだった。
だからおかしくはないのだが、まだそれが続いてると思うと何だか笑える。
「キョーは相変わらず本好きだね」
「それ以外する事ないからね」
彼女はいつもそうやって言いながらも軽い足取りで図書館に向かっていってたっけ。
いつも、何曜日かの図書当番の日は言わずとも分かるほど彼女の機嫌は良かったのを思い出した。
彼女に視線を戻すと、その隣には随分と背の高い男がいた。
何処かで見たことあるような、でも、ちょっと違うような。
思い出そうと彼の顔を見たいが、結構整っているので見ているこっちが恥ずかしくなってくる。
私の視線に気付いたのか目が合ってしまった。
彼は少し気まずそうに笑った後、視線を外し彼女の持った紙袋を軽々と取り上げて奥の専門書辺りに向かっていった。
「キョーちゃん、俺あっち行ってるね」
「わかりました。おとなしくしてて下さいね」
「はいはい」
キョーちゃん?
彼女をそう呼ばれるのを許しているのは一人だけ。
それは中学時代からだ。最近も続いているみたい。
先述の同窓会のとき彼女が元クラスメイトからそう呼ばれて心底嫌な顔をしていたから気付いた。
慌てて藤崎さんと呼び直す彼には同情した。
正直、キョーのそういう頑ななところは異常だと思うが嫌いではない。
そして今、彼女はそう呼ばれても笑顔で受け答えしてた。
それから推測するのは安易な事だった。隣にいる男が誰なのか。
中学時代、彼女の隣に居たのは私。それ以外彼女の隣に好んでいるのはひとりだった。
その彼は彼女をそう呼んでいた。