第3章 【岩泉一】優しい彼
「いや、花巻と及川が一緒にいるって聞いたからアイツどこにいるか知ってるか?」
「ここにいるけど」
花巻が振り向いたかと思うと後ろには及川が何とも言えない表情で立っていた。逃げまくってた彼に岩泉が話し掛けようとした時及川の方から口を開いた。しかし、声は小さく聞き取りにくい。
「なんで……、………」
「は……?」
「なんで……………んだよ………」
「聞こえねぇよ」
「だから!!、なんで岩泉がちゃんのことおぶってんだよ!!人の彼女に手を出すな!!」
「出してねぇし。てか、おぶるくらい別にいいだろ」
いきなり何を言い出したかと思えばいきなり切れだす及川。喧嘩に発展か、言い合いに発展か。良く喧嘩し合っている二人だが大概はおふざけで、仲が良さそうに見える。でも今回は違う。あの及川が岩泉の事を"岩ちゃん"と呼ばなかったからだ。しかし、これも慣れているようで激怒している及川を見ても冷静に返す彼はベテランだ。荒れていた及川をすぐに元に戻る。
「だいたいこうなったのもお前のせいだ、クソ川」
「は?どう言うこと」
「お前を追いかけているときにが階段で足を捻って、歩ける状態じゃなかったんだ」
「え、そうなの?!ちゃん大丈夫!!」
「話し聞いてた?大丈夫なわけ無いでしょ、ウザ川」
「二人して酷!!」
女子のような高い声を出して騒いでいる彼。いつもの様なやりとりに戻り安心する。
二人のやりとりに花巻とクスクス笑っていると「笑わないでよ!」と、またツッコミが。やっぱり及川はこうでなくては。
「それにしても、オレを追いかけてた理由って何?」
「お前、校長室の前の花瓶割っただろ」
「あ……」
「アレの請求書が部に来た」
「え、嘘……」
「始末よろしくな、じゃ、」
「は?ちょっと待ってよ!!」
ポケットに入っていた始末書を取り出し「頼むよ」っと押し付けた。その瞬間に顔が真っ青になった及川と来たら。始末書の額を見た瞬間凍ったように動かなくなり、ブツブツ独り言を言い始めた。こんな彼を見るのは誰でも初めてだろう。完璧主義の彼が無様な姿を見せるなど早々無いのだから。