第1章 日常へのちょっとした変化
「んじゃ、そろそろ帰るか」
2人の光景に見とれてしまっていた私は、彼の言葉で我に帰った。気づけば夕暮れ時で、そんなに話していたのかと内心驚いた。
「え〜・・・」
「え〜、じゃない」
「だって・・・」
2人の会話を聞いていると、陽太が今にも泣き出しそうな、寂しそうな顔を私に向けた。今日会ったばかりの私にそんなに心を開いてくれているなんて心底嬉しい。陽太につられて私も寂しくなってしまう。
「ありがとうね、陽太。そんな顔しないで、ね?」
「・・・うん」
「ほら、帰るぞ」
「・・・・・・」
明らかに落ち込んでしまった様子で、私もお兄さんもどうしていいものかと苦笑い。お兄さんが頭を撫でても、私が笑いかけてもまるで意味がない。秋にもなると日はすぐに落ちて暗くなり、気温も下がる。
「あ、あの・・・・・・来週、」
「え?」
「・・・土曜日か日曜日・・・どちらか、空いてませんか・・・?」
このままだと陽太が風邪をひいてしまうかもしれないし、それにこんな表情のままお別れなんて・・・というより、私も寂しかったから。勇気を出して、お兄さんに聞いてみた。
「もし、迷惑でなければ・・・」
「いいんですか?逆に。予定とかあるんじゃ・・・」
「え・・・あ、私は全然!」
私が話を持ち出した瞬間、考えるような表情をしたお兄さんを見て余計なことを言ってしまったと後悔したが、拍子抜けした。渋っていたのは、私に迷惑がかかると考えてくれたからだった。
「じゃあ、土曜日の昼はどうですか?俺、午前中は学校で・・・」
「あ、大丈夫です、私もなので・・・」
「よかった。・・・陽太の為にすみません」
「い、いえ、そんなこと・・・」
申し訳なさそうに私に小さく頭を下げると、彼は陽太と同じ目線になる様に屈んで、次の約束について説明し始めた。理解した陽太は想像以上に喜んでくれて、私の方が嬉しくなった。
駅まで送る、と言うお兄さんの押しに負け、結局3人で歩いてきた。
「ほら、姉ちゃんにありがとうは?」
「ありがとう、とも!たのしみにしてるね!」
「うん、私も!」
「それじゃあ、また土曜日に」
「あ、はい!」
帰って行く2人をぼんやり見つめる。何か、凄い時間だった。まさか初対面の人とまた会う約束をするなんて・・・
こんなこと、ある?