第3章 一度による大きな進展
「行ってきまーす」
月曜日の眠たい朝、家を出ると季節を感じるような冷えた風が頬を撫でた。ほんの少し身を屈めて、そう遠くはない駅に急ぐ。
(う〜・・・マフラーが恋しい・・・)
そう、私の愛用のマフラーは残念ながら手元にはない。どこにやったっけ?なんて、家を出る前にどんなに探しても見つからない。眠さで働かない頭を懸命に動かし、ようやく思い出した。陽太に掛けてそのままであるということを。
「うわー見てるこっちが寒い!よくマフラーなしで出れるね。寒くないの?」
「寒いよ!」
「じゃあ何でマフラー巻いてこないのさ」
バス停に並ぶ私達。つい食い気味に返してしまった私を特に気にすることもなく、彼女はケラケラと笑っている。とりあえず、小さい子が寒そうにしてたのでマフラーを掛けてあげてそのままになってしまった、と大まかに話した。
「お人好し」
「だって小さい子だったんだもん、可哀想じゃん」
「昨日休みだったけど、買いに行かなかったの?」
「・・・今朝、家出る前に思い出した」
ともみらしい、とまたも笑う麻乃。ようやく到着したバスに乗り、微かな暖かさにホッと胸を撫で下ろす。さすがにこれからの季節にマフラーは欠かせないので、今日の放課後買いに行くことに決めた。
長い1日の授業を終えて待ちに待った放課後。引退はしたが一応報告をしようと、部活に出る麻乃と一緒に部室に向かう。私達の部室は校門近くの建物の2階。下駄箱を出て校門の方に歩いて行くと、校門付近にちょっとした人だかりのようなものが出来ていた。
「・・・何だろう?」
「さぁ?」
キャッキャと女の子特有な声をいくつか聞きながら、必然的に通らなければならない校門を目指す。・・・と思いきや、
「ねぇねぇ、ちょっと見て行こうよ!」
まんまと周りの黄色い歓声に感染された麻乃が、興味津々に私の腕をとる。人混みが苦手な私の意見なんて聞く耳も持たず、長身を生かしてズンズンと進んでいく。そんな人だかりから聞こえるのは、カッコいい、イケメン、などという、いかにも男を指すような表現が飛び交っていた。
「あんた彼氏いるでしょうが!」
「いいじゃん、見るだけだもん」
イケメンという言葉に反応した麻乃を止めることは出来ず、半ば引き摺られる形で私も麻乃の後をついて行く。