第2章 -熟睡できる部屋-
ガチャ…
また…かぁ。
誰もいないはずのわたしの部屋の
ベッドがなぜか膨らんでいた。
でも、決して泥棒や変態などではない。
”なぜか”という言い方をしたけど、
誰が中にいるのか、
わたしにはわかっていた。
あ…でも、
巨乳好きっていう意味では変態かな。
『春眠暁を覚えず処処啼鳥を聞く…』
和訳はたしか…
『春の眠りは心地よく、
うっかり寝過ごし、
夜明けに気付かない…』
とかなんとか…説は色々あるけど、
こんな感じだったかな。
塾で習った孟浩然の
「春暁」の頭を思い出した。
たしかに今は4月…春真っ只中だけど、
この人には季節など関係ない。
だいたい、今はもう夕方の5時半。
夜明けじゃない。
わたしはバッグを置いて、
ベッドのトコまで行って、布団をめくった。
バサッ…。
「大ちゃん!
頭まで布団かぶってても
わかってるんだからね?」
「ふぁっ…うっせぇなぁ…。
せっかくいい夢見てたのに。」
布団を取ると、
桜色の布団の似合わないガン黒大男…
大ちゃんこと青峰大輝が
目をこすりながら、
わたしを見上げていた。
大ちゃんがわたしを
見上げているということは、
わたしは大ちゃんを見下ろしている。
大ちゃんが寝ているときだけ起こる
逆転現象だった。
「自分の部屋で寝てれば、
わたしに文句も言われないのに、
なんでいつもここで寝るかなぁ。
てゆぅか、隣なのになんでわざわざ…」
「あ⁈どこで寝ようがオレの勝手だろ?」
「だからって、
わたしのベッドじゃなくても…。
お姉ちゃんの部屋に行けばいいのに…」
まだ人のベッドで
ゴロゴロしてる大ちゃんを放置して、
わたしは塾に行くための準備を始めた。
「はぁ⁈
なんでさつきの部屋なんか
行かなきゃなんねーんだよ?
学校でも監視されてんのに。
つか、やっぱすーのベッドが1番落ち着くし。」
せっかく起きた大ちゃんは、
また布団を掛けてゴロゴロし始めた。
大ちゃんはズルイ。
いつも突然人をドキッとさせることを言う。
「今日も部活休み?」