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薄桜鬼 群青桜

第31章 希求


「貴様らの事情は知った事ではないが、俺にもあの八瀬の姫を救出する必要がある。……不本意ではあるが。」
「都合がいいのか悪いのか、たまたまお前が居合わせたせいでなんか仲間っぽく扱われて、ちょっと納得できねえんだけど。」
「それはこちらの台詞だ。紛い物風情と同じ目線で語るなど笑わせるな。鼻から貴様になぞ興味はないと言っているではないか。」

 放っておけばいい争いしかしない二人であったが、今はこの騒がしさが、久摘葉にとってはありがたかった。
 辛い現実から少しでも目を逸らすことができる気がして、少しだけ休むきっかけを意図せずして手に入れたようなものだ。


「風間さんはこの後、どうするつもりなんですか?」
「二日後、天霧が藩境で騒動を起こす手筈になっている。騒ぎに乗じて動くのであれば好きにするといい。」
「二日後なら颯太のさっきの話と合わせても丁度いいな。」
「それと、久摘葉にこれを渡しておこう。」


 そう言って風間が手渡したものは、かつて千月が腰に携えていた、打刀だった。
 当時の記憶を持たない久摘葉は何故…と言った表情で、刀をまじまじと見つめる。

「何故、これを私に……?」
「油小路にて、お前が悪鬼と成り果て、捨て置かれたものを天霧が回収していた。それを返したまでのこと。戦場に赴くのであれば、護身用にでもなんでも持っておくがいい。袂を分つとなったところで、同胞に死なれるのは気分が悪い。」

 ぶっきらぼうに刀を手渡す風間を、素直じゃないなと鼻で笑う藤堂。また口喧嘩が始まって賑やかになると、どこか嬉しくなって笑う久摘葉。

「ちゃんと無事なまま全部終わったら、その時にお礼を言います。行動で、示します。」

「ふん、好きにするといい。」

 それだけを言い残して、風間は早々に去っていった。
 少しだけ取り戻した、久摘葉の笑顔の裏にはまだ陰りが潜んでいる。
 ポケットに忍ばせた深淵がゆらゆらと波打って、久摘葉を怪しげな陽炎で誘惑するのだった。
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