第4章 もう一人のお姫様
「そろそろか…………」
5限目の授業終了のチャイムがなる数分前。
俺はゆっくり起き上がるとぐっと伸びをした。
季節は夏に近づいており、近頃はだいぶ暑くなってきたと思う。
そろそろこの屋上が地獄と化すのも時間の問題だろう。
屋上を出ると、俺が向かう先はただ一つ。
椎名の教室だ。
あの日、椎名が男子生徒に絡まれているのを目撃してから、俺はできるだけ椎名のそばにいるよう努めていた。
こうして授業が終われば教室まで迎えにいき、途中まで一緒に帰る。
目付きが悪くて今や授業をサボりまくり不良と言わざるをえない俺が側にいれば、わざわざ椎名に声をかけてくる馬鹿なんていなかった。
なぜこんなことをしているのかというと、八尋に椎名のことを相談すると「だったら燈斗くんが毎日護衛してあげたらいいじゃん」と言われてしまったのだ。
普段の俺ならそんな面倒なことは断るのだが、椎名に俺達を頼れと言った手前無下にすることもできない。
というわけでしばらくはこうして椎名の護衛をつとめることになったのだ。
教室にたどり着くと、壁にもたれかかって椎名を、待つ。
丁度授業が終わったのか、教室から続々と生徒が出てきていた。
相変わらず生徒からの視線は集まるが、椎名と過ごす時間がさらに増えたことで随分慣れた気がする。
そうしてじっと椎名が出てくるのを待つが、いつもならすぐに出てくるのに今日はやけに遅い。
どうしたのだろうと中をのぞきこめば、教室には椎名の姿がなかった。