第2章 白雪姫
「…………おにぎり、でいいの?」
チラリと八尋の手にあるおにぎりを見つめる椎名。
その言葉の意味を理解した八尋は、ブンブンと大きく首を振る。
「いや、さっきのは冗談だから、ほんとに何か買って来なくていいよ!
そんなの悪いし!」
「…………?わかった」
不思議そうに首をかしげた椎名は、こくりと頷く。
「……なんか、椎名さんって聞いてたイメージと全然違うんだね」
「…………そう?」
「うん。滅多に笑わないって聞いてたから、もしかしたら人と関わるのが嫌なのかなって思ってたんだけど、そんなふうじゃないし」
「…………人と話すのは、嫌じゃない」
椎名の言葉に、なぜかホッとしたような様子の八尋。
「じゃあさ、椎名さんさえよければこれからも僕たちと喋ってくれないかな?
僕、もっと椎名さんのこと知りたい」
「………………」
八尋の提案に、椎名は無言だった。
困ったような顔で「ダメ?」と八尋が問いかけると、椎名は小さく首を振る。
「…………ダメじゃない」
「そっか!良かった!」
ぱっと顔を明るくする八尋。
それを見た椎名も、少しだけ表情を和らげた。
「じゃあ、これからも昼休みに屋上で会おうよ!
僕たち四人で!」
「おいおい、俺たちもか」
「当たり前だよ!ね、燈斗くん!」
「…………勝手にしろ」
一人で盛り上がる八尋に小さくため息をつく。
これから昼休みはこんなふうに賑やかになるのだろうか。
想像すると、それも悪くないかもしれないと思う自分がいて内心苦笑した。
チラリと椎名を見ると、喜ぶ八尋の顔をじっと見つめている。
いつも通りの無表情。
だがこの時、なぜか俺には彼女が悲しんでいるように見えた。
なぜそう思ったのかは、俺にもわからない。
ずっと見つめていると、俺の視線に気づいた椎名と目が合う。
きょとんと首をかしげてくる顔には、先ほどまでの悲しみはもう映っていない。
気のせいだったのだろうか…………。
一人でそう納得して、俺はメロンパンの袋をこじ開けた。