第1章 1
「私何かしましたか?」
見つめ返す不思議そうな眼は、
まるで全部を見透かしているようで、だが
その実何も分かっていない。
馬鹿な子。
けれどその清らかさが何よりも羨ましく僕の目には映る。
「べっつに…いいよ、君はそのまんまで」
「もう、何なんです?」
「五月蝿いな、もう黙りなよ」
膨れる唇をそのままに、額へ押し当て細い四肢を抱き込む。
あの桜のように、僕も慣れる日が来るだろうか。
近藤さんの為に命を散らし、
その散った花びらが少しだけでも
彼女の心に貼り付いて離れなければ良い。
「ねえ、 」
桜吹雪が、音を消す。
名前を呼び問い返す君に返事をする気は毛頭ない。
ただ思うならば
どうか、この意地の悪い言葉の意味を
君は生涯知らずに居て欲しい。
そう、切に僕は願う。