第1章 1
「あのさ、突然泣かないでくれる?鬱陶しい」
顎を指で押し上げ顔を上げさせると、
覗き込んだ時はただ地面へと落ち続けていたソレは、彼女の
頬を流れ伝う。
些細な変化なのに、
水が陽の光に照らされて眩しい位に光って見えた。
「ご、ごめんなさ…でも、とても綺麗でー」
「…」
そこから先の言葉は続かない。
声を震わせて言った言葉の先にあるのは
ただ一本の桜。
気まぐれに、
そうだ、君にも見せてあげる。
そう言って
下女としての仕事がまだ終わっていない彼女を
強引に連れてきたのだ。
きっと困りながらも適当な感想をいうんだろ?
困り顔をするだろう彼女に
今の予想をそのまま沖田は言うのだ。
冷ややかに、馬鹿にした物言いで、
そうするときっと彼女は酷く傷ついた顔をして
顔を赤くして俯けるのだ。
逃げたい衝動に駆られながらも、
裏山まで連れて来られ、一人では帰れない彼女は
傷つきながら俺に恥を忍んで帰り方を訪ねる、
それをまた意地悪くなんて愚かな子なんだろう、そんな顔をありありと見せながら言ってやるのだ、
台詞はこうだ。
あれ?折角見せにきてあげたのに
君ってばそんな人だったんだね。
あーあ残念だ。
そう、そうなる筈だった。