第7章 終わりの足音
18時50分。○○駅。噴水前。
「今日は俺が先だと思ったのに。
いつもこんなに早いの?美月ちゃん」
ユウトの笑顔。
私は呆けたように見つめる。
「どうしたの?」
「…あ、うん、行こっか…」
ぎこちなく立ち上がって、ユウトの手をとる。
意外と関節が太くて、大きな手。
再会して、はじめに来た居酒屋で並んで座る。
店員さんにメニューを告げ、一通り料理が揃う。
「何かあった?」
心配そうに顔を覗きこんでくるユウト。
私はなにも答えられずに、台本を渡す。
不思議そうな顔で、ユウトは受け取って目を通す。
「え…これって…?」
私はうなずく。
「最終回なんだって…」
ユウトは何も言わずに、頭を撫でてくれる。
「よく頑張ったね」
きっと、ユウトは私を慰めないと、と思ってくれるだろう。
でも、出演アニメが打ちきりになることがショックなんじゃない。
ユウトに慰めてほしいんじゃない。
「違うの、別にショックじゃないんだ。
いい経験になったと思うし、それに、次の作品も決まってるんだ。
日曜日の朝の女の子向けアニメ。レギュラーだよ」
努めて明るい声で、私は言う。
ユウトに会えなくなることがショックだと告げるのは、今まで真剣に、練習に付き合ってくれたユウトに失礼だ…。