第154章 君と鼓動が重なる時
唇で互いの熱を絡ませ合った後、手を繋いだままで廊下を歩き、あの部屋の前に並ぶ。
そして、どちらともなく優しく触れるだけのキスをしてから、エルヴィンは繋がった指先を解くと、部屋の中に入り、ゆっくりふすまを閉めた。
だが、凛は部屋の明かりが灯ることがないのを不審に思い、ふすまの真ん中にある、明かりが透けて見える筈の障子紙が張られている部分に、そっと触れた。
「……エルヴィン?電気、点けないの?」
「電気を点けると、凛に俺の影が見えるだろう?
タイムスリップした瞬間、影が消えて無くなるのを見るのは怖くないか?」
「うーん…どうなんだろうね。」
軽く目を瞑って、そうなった時のことを考えてみるが、想像に難しい。
その時、触れていた障子紙越しに、エルヴィンの手の感触を覚えた。
「紙越しでも、君の体温が気持ち良いくらい伝わるよ。」
優しい声色から、エルヴィンが微笑んだのが分かる。
「本当だね……」
愛おしく思える熱をもっと感じていたくて、指先に力が入る。
エルヴィンはそれを受け入れるように、大きな手のひらを重ねてくれた。
「凛、ありがとう。
君にここで助けられたこと…ここで君と出会えたことに、深く感謝してる。」
「私だって…私の方が、エルヴィンと出会えたことに感謝してるよ。ありがとう。」
すかさずそう言い返してすぐ、この会話に違和感を覚えてしまう。
「……なんかこれ、最後の言葉みたい。」
「まぁ……凛とは鼓動が重なりやすいようだし、これが最後の言葉になる可能性も考えながら話しているからね。」
小さく息を漏らすエルヴィンの指先が、少しだけ震えた。