• テキストサイズ

【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第32章 まだ間に合うからジュリエット(牛島若利)




手の甲に、 染みるような痛みが広がった。 親指の付け根。 みるみるうちに赤くなってくる。 最悪だ。 涙が滲む。 最悪だ。 泣きたい。


「なまえ」

ドアがまた開いた。 シャワーを浴びて来いと言ったのに。 汗だくのままキッチンに入ってきてほしくはない。 今度は一体何なんだ。 あぁ、 バスタオルが無いのか。 子どもか。

「ベランダに干してるから」
鼻をすすりながら先に言う。 「もう乾いてると思う」


「火傷をしたのか」
ずい、 と牛島が隣まで歩み寄ってきた。 「『熱い』と聞こえた」


「別に」

「どこだ」


渋々右手を差し出す。 手首を掴まれて、 そのまま蛇口の水に当てられた。

少しだけ驚いて身じろぎしたが、 右手はびくともしなかった。 熱を持った傷口が冷やされて、 痛みが次第に和らいでいく。



「火傷をしたら、 すぐに冷やせ」

牛島の口調は、 軍隊の隊長のようだった。 危なくなったら、 すぐに撤退しろ。 負傷兵は置いていけ。

それから私の顔を覗きこむようにして、 「泣くほど痛むのか」と聞いてきた。


「そうだよ」と私は答えて、 また鼻をすすった。 涙がボロボロと出ていた。 火傷のせいではなくて、 牛島が好きなのに嫌いなごちゃごちゃのせいで泣いてるんだ、 と言っても多分、 わかってもらえないだろう。 火傷の痛みにかこつけて、 泣くのだ、 私は。

/ 363ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp