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【ハイキュー!!】青息吐息の恋時雨【短編集】

第26章 月が(赤葦京治)



学年が1つ下の赤葦の“ 片付けられない症候群 ”は、去年の夏頃から問題として浮上していた。最初に彼の部屋に押し掛けて行った木兎の『よくわかンねーの』との報告を受け、野次馬の男子たちが週代わりで訪問者となり、そして翌日には皆気まずそうに目配せをし合い苦笑した。からかいもフォローもないその真意を図りかねたわたしたち女子マネージャーによる緊急会議が開かれたのは、そうか、もう1年以上前なのか。

更に、年末の大掃除。
部員全員で部室を綺麗にする恒例行事。年の瀬独特の厳かな空気が満ちる中、なぜか掃除前よりとっ散らかっていた一画があった。赤葦が担当したスペースだ。『整頓しました』と本人は言ってのけたが、どう見ても超絶雑然ブラックホール。その矛盾が我々に与えた衝撃は大きく、その箇所の名前をもって”備品棚とその上および裏側事変”と今もなお、当時の惨状は誇張を巻き込みながら語り継がれ続けている。

美しいフォームでトスを上げ、淀みなく副部長以上の仕事をこなす姿からは想像がつかないが、どうやら掃除下手は紛れも無い事実のようで『すみません、すみません』と赤葦はそのことが話題に上る度に、しゅんとなって謝罪を繰り返す。『治します。治したいです』と自身の欠陥を認めていながら、どうにもできていない様子に同情して、わたしたちも掃除のコツを調べては彼に伝授していた。” 好きな人を部屋に招待する ”というのも、おそらく、その中の1つにすぎない。


確かに、来客があれば誰だって掃除する。幻滅されたくない相手なら、徹夜してでもするだろう。だけど肝心のアドバイスの発言者は誰だ?好きな人だなんて、からかっているとしか思えない。でも、真剣に悩んでいる赤葦が、やってみる価値ありと判断する可能性も十分にある。


それで、もし、自分に声がかかったら?

駅の看板の下を通るとき、ふと頭によぎって、わっ!と声が出そうになる。わたしなにを考えてんの。そんなことある訳ない。恋人同士でもないのに、先輩を連れ込む男子がどこにいる?そもそも私はあの子のことが好きか?確かに好みだ。しかし、意識したことはない。今日、目が合うまでは。


違う、違うと反論しながら打ち消していく。違う違う。早まるな、まだ何一つ事実は確定していない。期待すると傷つくぞ。今までだってそうだったじゃないか。決めつけるのは危険だ。無欲になれ。煩悩を消せ。
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