第23章 駿足アキレスあるいは兎;そもそも彼奴は亀なのか(五色工)
「十分あり得る。私らが中等部ん時、高等部女子の間で牛島ファンクラブできてたからね。年上に告られてても不思議はない」
なんにせよ、だ。となまえは振り返って五色を見上げた。「牛島はあんな美人の彼女持ちだぜ?負けているぞ五色くん」
「お、俺だって3年になればそういう女性くらいできます!」
「学年は関係ないですぅ~」
「さっきの俺の真似ですか、それ」
怒るべきか拗ねるべきか分からず、五色は中途半端な顔をした。「なまえ先輩って、なんで俺にそんな意地悪なんですか」
「意地悪な人には、意地悪な言葉が返ってくんのよ」
「俺は先輩に意地悪した覚えはありませんし、あの女性は牛島さんの姉か従姉妹かだと思います」
「あら、私は断固、恋人に賭けるね」
ふふん、となまえは涼しげな顔をするので、「じゃあ俺は血縁関係に賭けます!」と五色もムキになる。それからふと、「ただの友達だった場合はどうしますか」と疑問を投げかけた。
「そんときは引き分けだ」
「友達以上恋人未満だったら?」
「全部場合分けしないと気が済まないの?」
なまえは声をあげて無邪気に笑った。しかしすぐにトーンを落とし、「ところで五色よ」と切り出した。「あんた、私の恋人のフリできる?」
「やってみます」
即答した瞬間、なまえが腕にしがみついてきた。えっ、と五色は声を漏らす。
先日監督から、"できるか"と聞かれた際は、できる/できないではなく"やってみる"のだと教わったのだが、相手の話をよく理解する前に返事をしたのは失敗だったのかもしれない。