第22章 ままならないまま(夜久衛輔)
「あッつゥー!いい加減にしろよ体育館の分際で!!」と,ついに山本がキレたのは,3対3の合間の休憩の時だった。
「暑いんだよ!ここはサウナか!亜熱帯か!殺す気ッかァ!!?」
上半身を大きく反らして,彼は手に持っていたバレーボールを真上へ乱暴にぶん投げた。鬱憤晴らしのためだけに投げられた球体は,体育館の天井に吸い込まれるように舞い上がり,そして入り組んだポールの隙間へと,音も無く綺麗に挟まった。
「あ゛っ!」
上に飛んで行ったものが落ちてこないという不条理な光景に,夜久を含めた,チーム全員がしーんと静まり返る。最初に口を開いたのは主将の黒尾。
「バーカ」
「スンマセンッ!」
「山本うるせぇ」
「すんませ夜久さ……ってか暑ッ!!!」
「うるせぇー」
「ちょっと,みんな黙ってよ」
呻くような声に夜久が振り返ると,壁ぎわでタオルを頭に被った研磨が「騒ぐと余計暑くなる」とぐったりしていた。
「そういうお前は動かなすぎだろ」
夜久は苦い顔をしながら,ぺったりと床に張り付いている研磨の隣へと移動した。すぐ近くの開け放たれた外扉から,微かに風が吹き込んでくる。どうやらここが,研磨の見つけた一番涼しい場所らしい。
「山本サン」とリエーフが頭上を指差した。「あれ別のボール当てれば落とせるんじゃないスか?俺やっていいですか夜久さん!?」
「なんで俺に聞くんだよ」
極端なテンションの後輩に,夜久は脱力した笑いを漏らした。「勝手にしろー」
「あざっす!よーし……」
そこから的当て大会が始まった。引っ掛かっているボールめがけて,リエーフが調子外れの暴投をしたのを皮切りに,やれ「ノーコン」だの「俺に貸してみろ」だの,見ていた部員たちも新しい遊びに次々加わり出していく。
「これじゃ,練習になんねーよ」
涼しい場所を離れるのが惜しい夜久は,傍観を決め込んでその場に胡座をかいて頬杖をつく。「下手くそばっかり」